interview #4
『面白そう』で始めたプロボノから
自分の生業が生まれました
森の案内人 YUKI☆さん
都内のIT企業の社員である「森の案内人 YUKI☆」さんが、
日本全国の森に通い、森林再生活動に取り組むように。
そのきっかけは、何気なく始めた蛤浜でのボランティア・プロボノ活動でした。
新しいことを少しずつ始める意味や活動の変化、
蛤浜だからこそ始められた理由などについてお聞きしました。
◾︎ 氏名:森の案内人 YUKI☆さん
◾︎ 所属・肩書き:森林保護団体「森のたね」代表
◾︎ 事業内容:森林再生、ネイチャーガイド、地方創生
◾︎ はまぐり堂に初めて滞在した時期:2017年6月
新卒で都内のIT企業に入社して2年ほど経った頃、
先輩から「震災ボランティアのツアーに行かない?」と誘われました。
ボランティア経験は皆無でしたが、直感で「面白そう」と参加することに。
宮城県内の数カ所を巡るツアーで、そのうちの一カ所が石巻の蛤浜だったのです。
蛤浜・はまぐり堂での体験。
それは、普段の生活では考えられない衝撃の連続でした。
まず、福岡市出身で、震災はテレビの中の話だった私にとって、
「震災から数年経ってもまだボランティアが必要なんだ」というのが率直な感想でした。
また、福岡市はいわゆる都会なので、
「鹿って本当に日本にいるんだ」という発見もありましたね(笑)。
そのツアーを機に蛤浜にボランティアとして関わり始めましたが、
やっていくうちにハマっていき、「ここで自ら何かをやってみたい」と思うように。
自分のITスキルを生かして、SUPの予約サイトの改修や大量のCDのデータ化など、
自分ができそうなことはどんどん手を上げてやりました。
ITの本質は課題解決であり、困っている人の力になれた喜びは今でも鮮明に覚えています。
そうしたプロボノ活動を続けていたある日、
「シカの捕獲率をITの力で向上させられないか?」という相談が。
石巻はシカの増加による環境被害が大きく、狩猟による捕獲率を上げていきたい、
と考えていたそうです。
全国の事例を調査して検討してみたのですが、
私の結論は「(狩猟を)やってみないとわからない」でした。
同時に得たのは、「IT技術だけではどうにもならない世界がある」という気づきです。
▼狩猟をはじめるまで
そこで、好奇心の赴くままに狩猟を始めてみることに。
山の環境を正確に把握し、
シカやイノシシの行動パターンを読んだ上で罠を仕掛けるのが、
野生動物との知恵比べのようでとても面白かったです。
ITの論理的な一面とは違った、本能的な自分の一面も好きだな、と思いましたね。
それに、獣害という明確な地域課題があったので、
獲ると喜んでもらえたのもモチベーションになりました。
ちなみに、私は銃と罠の両方の狩猟ができますが、
丁寧に自然と関われる点、動物の気持ちになれる点で罠猟の方が好きですね。
▼森林再生に取り組むまで
狩猟で森に入るうちに、森のことが気になり始めたんですよね。
最初は森林の気持ち良さだけを感じていたのが、
「ここは荒れているな」「よく見るとズタズタだな」と。
特に「沢が枯葉で詰まっていて、水が全然流れていない」ことが気になり、
いろいろ調べていくうちに、枯れ沢を復活させて
ホタルを飛ばす活動をする団体を東京で見つけたので、
そこで沢再生や林業の勉強をさせていただくようになりました。
ここで、大きな発見が二つありました。
一つは、「林業」と「森の再生」は相反する部分がある、ということ。
林業は、(悪い言い方をすれば)人間の都合で効率的に木を殺して利益を上げる活動ですが、
森の再生は森の都合に合わせて自然環境を良くしていく活動で、
自分は後者の活動をやっていきたいと考え始めました。
もう一つが、複数の地域を行き来する人材も重要だ、ということ。
これらの活動を機に複数の地域に通ううちに、
自地域の森には詳しくても他の森のことは知らない人も多い、と気づきました。
だからこそ、関東に住む私のように「関東で学んだことを地方で生かしたり、
各地の知見を別の場所に共有したりすることで、日本全国の森が良くなっていく」
と考え始めたのがこの時期です。
▼森林保護団体「森のたね」の活動
先述の東京の団体の解散を機に、そこで出会った仲間とともに、
森林保護団体「森のたね」を2023年に立ち上げました。
100年後の地球のために「森と海と心」を豊かにする任意団体として、
ご縁から生まれた8拠点(2026年2月時点)で
「①森づくり ②古民家再生 ③狩猟 ④地方創生」の4つの活動に取り組んでいます。
森の再生活動において「拠点」「仲間」「地域との信頼関係」「活動フィールド」の
4つの要素が欠かせないと考えており、4つの活動がすべて有機的につながっています。
「森のたね」は、学生など若い世代と一緒に活動することを大切にしています。
名前のごとく、森に関わる"たね(人)"を育てていきたいと考えているためです。
実際、若い人たちも「自分たちがここまでできると思わなかった」
「こんなに受け入れてくれる大人がいるとは思わなかった」と楽しく活動に参加してくれています。
ちなみに、以下の投稿にある文章とイラストは、活動に関わる2人の高校生が作ってくれました。
私たちが目指している世界観を、若い感性で素敵に表現してくれたのが本当に嬉しかったです。
▼蛤浜に関わって良かったこと
たくさんありますが、一番は「生きる力が身についた」ことですね。
自然環境に足を踏み入れ、そこで必要なことを読み取ってスキルに変えてこられた気がします。
特に私の場合は「森と生きる力が得られた」と感じています。
YUKI☆さんが高校生の時に、何の気無しに描いたイラスト。
本人も描いた理由を覚えていないくらい、「森と生きる」を潜在的に考えていたそうです。
▼「少しずつ」自分の活動を始めるすゝめ
今では任意団体の代表として森林再生活動をしていますが、
元々は都内のIT企業の社員です。
最初は月〜金のフルタイムで働き、土日でプロボノ活動に取り組んでいたのが、
だんだんと後者の比重が大きくなり、
今では「森の活動に8割の時間を使い、その資金を残りの2割のIT業務で稼ぐ」
と比重が逆転しました。
「自分で新しいことを始める」となると、
最初からフルコミットしてしっかり稼がなきゃと考えがちですが、
最初はスキマ時間だけでいいと思いますし、
軸足が複数あることで経済的にも精神的にも安心するので、
私のようにプロボノから始めるのもおすすめです。
ちなみに、森に関わる活動でも、
ちょっとした仕事でちょっとした収入を得られることもあるので、
本業を持っている人ならではの関わり方もできると思います。
▼蛤浜に行く意味、関わる意味
現在「森の案内人」という肩書きで、老若男女問わず様々な方を森に案内しています。
蛤浜においては、いろんな方を連れて行くと「素敵な場所だね」と必ず喜んでくれます。
特に、現代社会が森と切り離されて考えられていること、
自然環境に人が貢献できることがまだまだあることを知ってもらいたい、と思っています。
人の目が行き届いていない環境の中で、自分ができることを探す価値を、
蛤浜に行くと肌で感じるでしょう。
「森のたね」に関東在住のメンバーが多いように、
都会の人が蛤浜のような自然環境に関わることにも意味があると考えています。
都会の当たり前が地方の当たり前じゃない(その逆も同じ)ように、
自分の当たり前が他の環境で重宝されることもあります。
また、論理的に考える日々の仕事に加え、
非論理的なことが多い自然環境に身を置くことも、自分の価値観の拡大につながるので、
その意味でも蛤浜にはぜひ行ってみていただきたいですね。
はまぐり堂の亀山夫妻が、「人が自然に関わる意味」を圧倒的な現場感で教えてくれますよ。
◆ 編集後記
記事からも滲み出ているように、
YUKI☆さんは小さい頃から好奇心旺盛だったそう。
複数の物事の繋がり、関わりがある森は、
YUKI☆さんにとって宝の山だったのでしょう。
森を見ることは、世の中を見ることと
そう遠くないのかもしれません。
取材・文:角田尭史 (株式会社 midnight sun)